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東京高等裁判所 昭和46年(行ケ)24号 判決 1972年11月21日

原告

モンテカチニ・エジソン・ソシエタ・ペル・アチオニ

右代表者

イタロ・インコリーノアクイリノ・パリニ

右訴訟代理人弁護士

中松潤之助

外三名

同弁理士

串岡八郎

被告

特許庁長官

三宅幸夫

右指定代理人

中村寿夫

外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。

事実《省略》

理由

一<略>

二右争いのない本件審判手続によると、昭和四五年九月九日付で審理終結通知が発せられ、同月一九日原告に到達したのであるが、その間の同月一四日本件審決がなされたもので、その後同月二二日原告が審理再開の申立をするとともに全文訂正明細書を添付した手続補正書を提出したものである。そして、原告は、本件審決は審理終結通知が原告に到達する以前にされたものであるから、原告の有する審理再開の申立権を不当に奪つたものであつて、違法である旨主張する。

審理終結通知について、特許法第一五六条第一項が「審判長は、事件が審決をするのに熟したときは、審理の終結を当事者及び参加人に通加しなければならない。」と規定するところからみると、右通知は、当事者の利益のためにいわゆる不意打ち審決を防止する趣旨に出たものと解すべき余地があるようにみえないではない。しかし、同条第三項は、「審決は、第一項の規定による通知を発した日から二十日以内にしなければならない。」と規定しており、通知の到達を要件としていないことから考えると、審理終結通知は、職権主義の支配する審判手続において、区切りをつけて審理の進行をはか目的とする手続と遅延を防止することをり、審判終了の解すべきものであり、したがつて、審理終結通知をせずに審決をし、または審理終結通知が当事者に到達する以前に審決をしたとしても、そのこと自体が審決を違法ならしめるものではなく、同条第一項の規定は訓示規定にすぎないと解するのが相当である。このように解すると、同条第二項により当事者に与えられた審理再開の申立をする機会を失わせ、その利益を害することになると反論されるかもしれない。しかし、同条第二項の規定によれば、審理の再開は審判長の裁量に委ねられた事項であり、一方、審理終結通知を発したのちであつても、それが当事者に到達するまでの間は、審理再開申立の有無にかかわらず、当事者から提出された審判資料のすべてを検討判断すべきものであるのみならず、元来補正は何時でもすることができるものであつて、審理終結通知の有無とは関係がないものであることを考え合せると、審理終結通知は、当事者に対し審判資料の追加提出のために審理再開の申立をする機会を与える趣旨のものではなく、したがつて、前記反論はあたらないといわざるをえない。

もとより、審決の成立後に審理終結通知が当事者に到達するというようなことは、決して妥当な手続上の処理ということはできないところであるが、しかし右に述べたとおり審理終結の通知に関する特許法第一五六条第一項の規定が訓示規定にすぎない以上、本件審決が審理終結通知の到達前にされたからといつて、これを違法とすべき限りではなく、原告の主張は理由がない。

三したがつて、その主張のような違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由なしとして棄却すべきものと認め、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第一五八条第二項を各適用して、主文のとおり判決する。

(青木義人 石沢健 宇野栄一郎)

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